半島を出よ 村上龍

☆☆☆
半島を出よ (上)
半島を出よ (下)
近未来の日本、日本は財政がパンクし、アメリカから見放され、
世界から見捨てられつつある。
失業者とホームレスが急増し、希望を失った日本をターゲットに北朝鮮
ある作戦を仕掛ける。
作戦名は「半島を出よ」
北朝鮮の特殊部隊が日本の福岡で北朝鮮に対して反乱を起こすという作戦。
ぱっと聞くと荒唐無稽な作戦だが、それは、永田町はさらに荒唐無稽であるという
日本の政治家たちの弱点をついた絶妙な作戦だった。
おめおめと福岡を占領された日本。
日本は福岡と九州を切り離すことで何とか対処するが、次第ににっちもさっちも行かなくなる。
さらに北朝鮮から福岡に12万人の軍隊が到着する。
イムリミットはあとわずか。
そこで立ち上がったのは、社会からも見放された子どもたちだった。


っていう硬派な話なんだけどさ、北朝鮮の作戦で日本が翻弄されるところは、
日本の問題点をあぶりだしてる。
確かに、北朝鮮から12人の刺客が福岡ドームを占拠したときにドームもろとも刺客を
殲滅させてしまえばよかったんだろうけど、できないだろうね、日本。
後に大きな犠牲を払うことになるから、今のうちに小さな犠牲ですむようにするってことが
いかに大変かってことがひしひしとわかる。
「政治とは、大多数の幸せのために、少数の犠牲を払うこと」っていうイシハラさんが
言ったシーンはなるほど、と思うと同時にでも無理とも思った。


話の本筋からは離れるんだけど、私がこの長い本で一番感動したところはタケイを弔ったシーン。
「共有する感覚というのは静かなものなんだ、モリはそう思った。みんな一緒なんだと思い込むことでも、同じ行動をとることでもない。手をつなぎ合うことでもない。
それは弱々しく頼りなく曖昧で今にも消えそうな光を、誰かとともに見つめることなのだ。」
イシハラのところにいる子どもたちは刑務所に入れられるとか、社会に対応できない問題児ばかりでイシハラに言わせるところによると「お前たちは何が正しくて何がいけないのかすらわかっていない」子どもたち。
そんなどうしようもない問題児なんだけど、彼らは社会の倫理から外れていようと自分の好きなものがあって、それを生かして結局ビルを爆破する。
爆破して日本を救っても、何もしない。なぜなら誰も彼らがビルを爆破したことを知らないから。勲章をもらったりとか賞金がもらえたり取材されたりして、社会的地位が向上することは一切ない。
彼らは最初から最後まで大多数に見捨てられた少数であり続けて、それでいいと思っているところがかっこいいと思った。
それで彼らが少数であり続けられる理由って言うのが、彼らがそれぞれ(社会倫理からずれていると思われる)得意分野で第一人者になれるほど研鑽を積んでるからなのかなあ。