ブレイブ・ストーリー 宮部みゆき

願い事をひとつだけかなえてくれるとしたら、
私は何を願うだろう。


■ストーリー
主人公・ワタルは離婚によって失われた家族の幸せを取り戻すために、
幻界へと旅立つ。
そこで運命の女神に願いをかなえてもらうために。
幻界と現実の世界は表裏一体であり、
幻界はワタルの心を映して変化する。


ワタルは旅の途中でたくさんの大切な仲間たちに出会う。
しかし、ワタルが運命の女神に出会ったとき、幻界は絶体絶命の状態に陥った。
ワタルは運命の女神に、家族の幸せを取り戻すことを願うのか?
それとも、幻界を救うことを願うのか?


■感想
旅の途中にどんどん成長していくワタルに感動した。
特に、ワタルが自分の本当の願いとは、
自分の運命を変えることではなく、
自分自身を変えたいということだと気づいたとき。


モノは有限だ。
形あるものは時を経れば失われてしまう。
しかし、経験は永遠だ。
経験は知識や思いとなって、その人の心に蓄積されていく。


旅の最後にワタルは気づく。
今ここで、女神に家族の運命を変えてもらっても、
それで自分が幸せになるとは限らないということに。
なぜなら、人生でめぐり合う危機は1回限りではないから。
それよりも、どんな危機にめぐり合っても
それを乗り越えられる自分でありたい。
最後にそう気づいたワタルの姿に感動して
久しぶりに泣いてしまった。


以前、『千と千尋の神隠し』に対するコラムで、
「この映画では、千尋の旅が現実世界に全く影響を及ぼしていない。
千尋が旅を通して成長したのに、
それを現実世界が反映されないとはとても残酷だ」
ということが書いてあった。


しかし、千尋は自分の成長を現実世界に
持って帰れたのではないか?
ワタルのように。
そして、その経験を糧に、自分の生き方を、未来を
変えていくことができるのではないだろうか。


私は、ファンタジー小説を読むたびに、
こんなにすばらしい旅をした登場人物たちは、
現実世界に返ってきたときに、
つまらなくて仕方がなくなってしまうのではないかと不思議だった。
しかし、この本を読んで、それは違うと気づいた。


彼らは経験を糧にこれからを生きていくのだ、
冒険で学んだ経験、そこから変わった自分こそが、
至高の宝物になるからである。