容疑者Xの献身  東野圭吾

★★★☆☆
容疑者Xの献身

直木賞受賞作。
それまでの作品も結構面白かったことから、直木賞を受賞したこの作品はよほど
面白いんだろうと思って期待していたら、そうでもなかった。

天才的数学者石神は、隣に引っ越してきた母娘家族の母靖子に恋に落ちた。
ただ気配を感じるだけの恋。
石神は靖子が店員をしている弁当屋で弁当を買うだけで満足していた、はずだった。
歯車が壊れたのは靖子が別れた夫をはずみで殺してしまったせい。
隣に住む石神は事情を察し、靖子親子の手助けを買って出る。
彼は天才的な論理的能力を駆使して見事に殺してしまった男を隠蔽し、靖子親子への警察の追及を見事にかわす。


しかし、石神の旧友である天才的物理学者・湯川とであったとき、湯川は石神のトリックに気が付いてしまった。
苦悩しつつも石神にトリックを見破ったことを告げる湯川。
後がないことを知った石神は、最後の切り札を使う。
自分の生涯を棒に振って靖子の身代わりとなった石神、彼の用意したトリックは人の予想を超えるものだった。
石神はそこまで自分を思って助けてくれた、その深い愛情に心を打たれる靖子。
石神を幸せにしたいなら、自分はこのまま意中の男性と結ばれた方がよく、石神もそれを望んでいる。
石神への思いやりと、自分の良心の葛藤の狭間で悩んだ靖子が出した結論は…自首することだった。


トリックは面白いと思った。
靖子が殺した死体を隠すために、自分が別の殺人を起こして、それを靖子が殺した死体と見せかけてしまうというトリックは予想が付かなかった。
私はふだんミステリ小説を読まないからこのトリックがいいものなのか平凡なのかは判断が付かないけど、直木賞受賞するくらいだからきっといいトリックなんだろうとは思う。
でもこの小説で納得できない点が3つ。

  • トリックのためだけにそれだけの理由で殺人って出来るもの?

そういう疑問に対する伏線として石神は論理的であることを追求するとか書かれているけど、
それとこれとは別問題のような気がするんだよなあ。
それに共感できないからこのトリックは私としては納得できない。
石神さんはそこまで特異な人間のようには思えないし…

  • 石神さんがなんで1年前の自殺しようと思ったのかが唐突過ぎて共感できない
  • 石神さんが自殺しようと思った矢先に出会った靖子に恋に落ちる理由がよくわからない


トリックは納得できても感情面で納得できない点が多かった。
いくら好きな人のためであっても、その判断が世間の一般的な倫理観とかけ離れているとき、その判断に基づく行動は結局好きな人を苦しめるだけになってしまうんだね。