目覚めよと人魚は歌う 星野智幸

目覚めよと人魚は歌う (新潮文庫)
☆☆☆
相変わらずあまりわけがわからないんだけど、面白い。


会社の前に大きい木が植わっている。
春になって、会社に行くたびに、木に葉っぱがふさふさと芽吹いている。
最初はちょっと春を感じさせるようなちょろちょろと。それが行くたびに葉の増え、昨日はもうふさふさ。まるではげているおじさんの頭を時間軸を逆に再生しているようだった。それぐらいふさふさ。私は朝会社に行くたびにその木の生命力に驚かされるのです。


星野さんの小説はよく植物がでてくるせいか、そんなようなことを思い出します。
アルカロイド・ラヴァーズを読んだ時は冬だったせいか、私が思う地球の生命力と星野さんの描く植物の生命力が一致しなかったんだけど、春になって、あらゆるものの生命力に驚かされる今日この頃。


この本は芝居を見ているような感じだった。
人を殺してしまった恋人たちの逃避行先は、知り合いのつてを頼った砂漠の中にいる一軒家。そこでは本物の家族ではない家族が擬似家族を演じ、砂漠の中にあることもあいまって、日常から切り取られた空間を作り出している。
そこの空間と実世界を結びつけるのはテレビというメディアのみ。
張りぼての舞台セットの中で人々の感情のみがリアルに行きかう、今まで読んだことがないような話だった。